経営コラム - 2012-10-18

2013年3月31日に金融円滑化法が終了します。

Posted by 川庄 康夫
Yasuo Kawasho

1. 沿革・意義

 

2009年のサブプライムローン問題以降の急激な景気の悪化を受け、その年の12月に中小企業金融円滑化法(以下円滑化法)は当初2年の時限立法として施行されました。その後、2回の延長を行いましたが、2013年3月31日に再延長しないこが決定されました。

 

今までは、金融庁はこの円滑化法に基づき金融機関に対して借入金の返済に困っている中小企業が経営改善計画に基づき返済計画の見直しを求めてきた場合には、できる限り応じるように要請してきました。

 

そのため円滑化方がスタートしてから2012年5月15日までの融資申込み件数は約313万件(金融庁の確定値)となっています。債務者1社が複数の金融機関に対して複数回要請することがあるので、この制度を利用した企業が313万社となるわけではありませんが、相当数の企業がこの制度を利用しているものと見込まれます。

 

円滑化法は金融機関にその返済猶予期間中に企業に対して経営相談や経営指導をすることも要請しており、それらの会社がキャッシュフローの改善を通して経営の建て直しをすることをもその目的としていましたが、資金繰りを一時的に改善しても経営環境が好転せず売上が落ち込み、結果として倒産するケースが出てきています。今年の倒産件数は前年同月比を越えると予想され、「円滑化法の効果切れ」が表面化してきました。そのため金融機関には、貸出先の中小企業への融資姿勢の変化が表れつつあります。

 

2. 事務所でのお話

 

9月上旬に金融機関のOBの方から「至急相談したいことがあるので伺いたい。」と電話がありました。その方は知り合いの経営者の方をつれて事務所にいらっしゃいました。以下にそのときの様子を書きます。

 

登場人物 川庄:K 元銀行OB:Y 元銀行の知人:T 

 

K:「何かあったのですか?」

 

Y:「銀行がTさんに担保を入れて欲しいといっています。Tさんの会社はいい会社なんですがね。」

 

K:「Tさん、あなたの会社の決算書を見せてもらえますか?・・・貸借対照表を見ると資本金は1000万、自己資本は13,000万円。いい会社ですね。これだと銀行は喜んで融資をしたいでしょうにどうして追加担保を要求するのですか?何か変ですね。」

 

T:「談合を行ったため、官庁からの指名停止になってしまいました。これから売上は激減すると思われます。」

 

K:「銀行は1行取引ですね。銀行さんとは長い付き合いですか?銀行借入は6億円ですね。これで追加担保ですか?自己資本が13,000万円あるのではなく資産を時価評価するとマイナスになるので、追加担保を差入れて欲しいといっているのですね。」

 

T:「銀行とは長く付き合ってきたのに何でですかね。1行取引がよくなかったのでしょうかね。」

 

K:「よくわかりませんが・・。今はリスケジュール中ですか?借入金の返済は約束通り行ってますか?」

 

T:「現在は返済猶予中で金利は支払っていますが借入金の元金はあまり返済していません。」

 

K:「わかりました。銀行は借入金の元本返済を受けていないので、おそらくあなたの会社を『要注意先』と格付けして貸倒引当金を積み立てているのでしょう。そんな状況の中、官庁からの指名停止になったということを聞いて、貸出金の回収に不安を覚え、債権保全として追加担保を要求したのですよ。ところで、追加担保は出せるのですか?」

 

T:「追加担保はありませんと銀行には返事をしました。銀行からは、では資産を処分します。と言われました。」

 

K:「それは厳しいですね。ところで、私への相談はなんなのでしょうか?」

 

Y:「社長が会社の債務保証をしているから不動産の処分を考えていますが、保証債務の履行のために処分した不動産の譲渡所得税は免除されるのではないですか?」

 

K:「お気持ちはわかりますが。会社の債務保証のために個人の土地を売却する場合は、今度は会社に対して求償権が発生します。今現在の貸借対照表を見ると自己資本は資本金1000万円の13倍の13,000万円ですのでこの会社は破産状態とはいえません。ですので保証債務の履行として課税を免除することは難しいと思いますが、今会社を倒産させるわけには行きませんので、銀行と話し合いをして資産の処分と債権放棄を同時に交渉してはいかがでしょうか?銀行で引当て処理が終わっていれば応じてくれると思いますよ。」

 

というような内容でした。これは円滑化法終了後に向けた銀行の対応と思われます。

 

このように、金融機関は2013年3月31日の円滑化法終了に向けて少しずつ準備をしていますが、その取組みには温度差があるようです。

 

3.セーフティネットの保証サービス変更による影響

 

11月からセーフティネットによる保証サービスの対象業種が4割程度減少します。また、信用保証協会による保証割合も現在の100%保証から80%保証に引き下げられます。

 

金融機関は保証協会の保証があればリスクなしで融資出来ていたところが、20%のリスクを負って融資をすることになります。そのため、融資条件が厳しくなることが予想されます。(貸し渋り)

 

また、金融機関はこの20%のリスクに対して一定の貸倒引当金を積み増しすることになります。これは、金融機関の利益を圧縮し自己資本比率を下げることとなり、金融機関の格付けが下がることにつながります。金融機関が自身の自己資本比率を上げるために、総資産の圧縮を図ることが考えられます。

 

そのために貸金の回収を強化した場合、貸出先の企業の資金繰りを圧迫し企業活動の停滞を招く恐れがあり、場合によっては倒産ということもありえます。

 

また、金融機関が担保不動産を処分するようなことになると不動産価格が低下し景気悪化の原因となります。来年は消費税増税の駆け込み需要を期待する声もありますが、金融機関の融資姿勢とその処分によっては景気を悪化させてしまうこともありますので、そのことを折り込んだ上で企業経営をする必要があります。

 

4.今後の対応策

 

先月末に地方銀行担当者が福岡財務局へ集められ、その席で「円滑化法が終了したからといって、『要注意先の要管理先』以下の格付け貸出先企業を一気に倒産させることなく、企業を選別して優先順位をつけて徐々に貸出先を絞るように。」と指示があったと聞いています。

 

そこで、今後は再建できる経営改善計画を立案し、毎月の計画案と実績の達成状況を金融機関にすることが必要となります。

 

金融機関とすれば貸付金額が返済可能状況にあることが判れば、いわゆる貸し剥がしをすることはないと思われます。

 

また、『正常先』の企業の経営においても、この先景気が良くなって経営環境が改善される見込は少ないため、実現可能な経営計画書の策定は必要不可欠であると思われます。

 

特に今後の資金繰りには最善の注意が必要です。

 

数値の計画だけではなく、それを実現させるための行動計画をきっちり立て、定期的に見直してさらに計画を練り直す。といった取組みが重要です。

 

川庄会計グループ代表 川庄 康夫

Posted by Yasuo Kawasho
代表取締役 川庄 康夫

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